恋の病、そして… |
伝染病のようにそれは広がってゆく。 有効な処方箋もなく、それに感染した俺はもう治ることがない。 お前も治って欲しくはないだろう? 恋の病。 この病は非常に面倒だ。 伝染病だから、俺以外にもかかってる奴がいる。 視線で俺には判るんだ。 お前を見つめる…丸井の瞳は、お前に恋してる目だよ。 「気付いてるんだろ?」 「何のことじゃ」 飄々と交わすお前が俺は嫌いだ。 俺に何を求めている? 束縛と解放。 磁石のN極とS極みたいに俺たちは近付くことは出来ても ピッタリと寄り添うことは絶対に出来ないんだ。 反対を示すそれは、俺とお前の距離を遠ざけるだけ。 常に相反する気持ちを抱き続ける俺たちの先には、何がある? 丸井と愉しそうに話すお前を見ても何も感じない。 真田と2人きりの部室にお前が踏み込んで来ることがなくなった。 前は柳生の姿を真似てまで来たと言うのに…。 柳生に扮するお前を見極められるのは俺だけだったはずなのに。 何もかもが悪い方向へ。 それが哀しいのか嬉しいのか、それすらもわからないよ。 哀しい。 それはお前が俺から離れることだから。 嬉しい。 それはお前が他人に自分を見せることが出来るようになったから。 どちらにせよ、お前が俺から巣立つ前兆? 病に侵された俺は、最終診断を待つ。 治ることがないこの病を治す手段、それは…。 新しい病に感染すること。 今よりもっと強い病に…。 俺を束縛する君よ。 その腕から擦り抜けて旅立とうか。 「俺を捨てていけ」 そうすればお前は辛いだろう? その辛さで癒そうと傍に来る奴を容易に受け入れられるだろう? 簡単なことだろ。 病の先にはひとつの結末しかないんだよ。 酷い言葉でお前を痛めつけ、貶して蔑んで冷たい眼で見れば。 賢いお前は悟るだろう。 この関係の行き着く果てを。 だから俺の前から消えろ。 頭が痛い。 割れるように響く音。 それは別れるを告げる幸の声じゃ。 耳に残るその声に俺はやっぱり…と、諦めよりも確信の息を吐く。 最後にはこうなるんじゃ。 予想よりも遅かったその言葉が、俺の幸への愛の重さ。 やはりお前は何も言わずに頷く。 それを優しさと取り違えているお前に何を言っても仕方ない。 お前の思考など知りたくもない。 もう…知る必要もない。 重たい過去を背負い、今日も俺たちは過ちを繰り返す。 泣けないお前を泣かすことが出来る奴に出会えるといいな。 俺には出来なかったけれど、神様。 彼に祝福を。 |
2006.05.12