058:病室 | ||
思っていたよりは良い印象だった 思っていたよりは、だけれど けれど病院特有の消毒薬の匂いは絶対に消えない 俺の身体にもそのうち染み込んで消えなくなるのかも知れない そう思うと眉間に皺が寄ったのが自分でも分った 病院は嫌いだ そもそも関係の無い場所だから この場所には俺の居場所は無い 俺の居場所はあのコートにだけ 此処は嫌いだ 此処には好きなものが何も無い 真っ白なシーツ 真っ白なベッド 真っ白なカーテン 真っ白な廊下 真っ白なフロア ‥同じ真っ白でもこのフロアは好きかも知れない 光が差し込むと綺麗なんだ アイツの髪の色のように綺麗なんだ あぁ‥ 何でアイツのことを思い出しているんだろうか 「それは会いたかった、そうじゃと思わんと?」 「思わないさ、そんなこと」 「そげん言う子にはあげられないとね、コレ」 「勿体付けるな。何だ?」 「此処でキスとばしとったらあげる」 「仁王」 「幸」 「‥‥はぁ」 溜息 周囲を見渡して背伸びをして軽く口付ける 光が差すこの病室で 光のような髪の男と 俺はキスをしました そしてその男が持って来た差し入れは 全くと言って役に立たないものだった 「病院の場を何と考えてるんだ‥お前は」 「この場所を‥消毒薬の匂いを俺の匂いに変えてやるとね」 病室は 病人の寝る部屋 病院で患者のいる部屋 その場所をこの男は密会の部屋にしようとしている 本能に忠実なのか? それとも‥ 「幸が好きだからに決まとぉね」 |
2004.05.13 |