057:死んでも嫌い

夕暮れに染まる誰も居ない部屋

貴方は難しいそうな本を読んでいる

声を掛けたいけれど出来ない

邪魔をしたくない

窓の外から聞こえる歓声に

貴方はにっこりと微笑んで

読んでいた本をパタッと閉じた

片手に本を抱えて周囲に挨拶をしながら貴方は教室を出る

わたしはそんな貴方と距離を少しだけ置いて貴方の後を追い掛ける

だって貴方の行く先は分っているから




階段を下りて

靴を履き替えその足で真っ直ぐに向かうの

貴方が1番好いている場所に

わたしもその後をゆっくりと追う

貴方の影を踏まないようにそっと




ギャラリーに取り囲まれた場所

ギャラリーは貴方が行くとスッと道を開いて歓声を上げる

その場所は




テニスコート




貴方は部員に軽い挨拶を交わし本を彼に渡した

彼はその本を繁々と観察すると飽きたようにベンチに本を優しく置いた

仕草とアンバランスな行動

それを見ていた人はわたし以外にはきっといない




貴方は羽織っていたジャージを脱ぎ

ユニフォーム姿になると

彼からラケットを受け取った

笑顔を彼に向けながら

その笑顔は今日見せた笑顔の中で

1番素敵な笑顔だった




練習試合は立海の勝利で終了

ギャラリーの歓声が一際大きくなり

今日の試合は幕を締めた




帰り

夕暮れは黄昏に変わり

ギャラリーも去ったテニスコート

其処に貴方と彼の2人

最後のコート整備のチェックを2人でしながら

笑う貴方

笑みを返すことは少ないが貴方の肩や頬に触れる彼

最後のチェックが済んだのか

2人はテニスコートを後にする

仲睦ましい貴方と彼




わたしは気付いてしまったから

貴方が好き

けれど貴方は彼が好き

彼も貴方が好き




だからわたしは彼が

仁王君が嫌い

わたしの好きな幸村君の笑顔を独り占めするから




けど

わたしの存在に気付いた仁王君と幸村君がわたしに向ける

意味深な笑顔は

好きかも知れない




これはわたしだけの秘密

それて2人の関係は仁王君と幸村君だけの秘密

でも覚えておいてね

わたしは幸村君を独占する仁王君が嫌いなんだから











2004.04.29