054:ヒーロー |
お前から送られた数々のメールたち その全てが愛しくて その全てを残しておきたい そんな願いを携帯の容量は叶えてはくれない 許容範囲を超えてしまう 俺たちのラブメール 見返したメール本文を見て、何度…泣いただろうか 枕を濡らした夜、朝は数え切れない この真っ白な部屋で俺が出来ること したいことは余りにも限られている 泣いて頭が痛い夜 お前からのメールだけが俺の安息 声が聞けなくとも、お前は俺に安らぎを与えてくれる 「それでも声が聞きたい…大会を前にして、欲張りだ」 テニスを優先させろ、と言う部長としての俺 会いに来て欲しい、と言う恋人としての俺 その天秤に揺れる俺を見透かしたお前は、俺の前に現れる 俺が電源を入れてなかったら? 確信してるなんて、少し…自意識過剰じゃないか? それでも俺はこうして携帯の電源を入れていて お前からのメールを見てしまったから 夜の病室をそっと抜け出し、中庭へと出る そこで俺を出迎えるお前 「幸、そんな格好じゃ風邪を引くと」 「急いでたんだ」 「そうか」 何も言わず、隣に立つ姿勢の悪いお前 「怪訝な顔しちょるの」 「お前は…本当に困った子だよ」 「それは幸の方じゃて。電源、入れたらあかんぜよ」 「ならメールをしたお前が悪い」 「泣いてたと?」 「何故」 「口数が少ないからのぉ」 「…お前は馬鹿だ」 その胸に飛び込めば易々と俺を抱き締める長い腕 俺の気分や気持ちを予見するようにお前は 俺から不安を払拭するんだな 「好きじゃ、幸。じゃけん…泣かないで」 「…馬鹿」 それだけが、今の俺の精一杯の言葉と強がり |
2006.04.28