051:深夜零時

暗闇でこうして膝を抱えていると
世界に自分ひとりだけのような気がする
真っ暗な暗闇に、薄暗く光る携帯の灯り
それだけが頼りのように
それだけが此処と世界を繋げる証のように‥
本当は許されないこと
誰かに見つかれば怒られることだろう
それでもこうして此処に来ては膝を抱えて蹲る
携帯の震える振動がメールの受信を伝える


<こげん時間にまだ起きとるとか?悪い子やねぇ>


そんな文章が送られ
くすっ、と笑う
自分で言っといて何を言うのかこのペテン師は


<ならもう寝るとするよ。構わないだろう?>


返信をする手が僅かに震える
感情に反して震えるのでは無い
身体が引き付けを起しているようなものだ
動くことを忘れそうな手
その手で最後に送信ボタンを押す
それだけで身体は息切れを初める
自分のそんな身体を忌まわしく思いながら
携帯が再度震えるのを待つ


病院内で唯一
携帯を使っても許されるだろうと
自分勝手に思っている場所
電話BOXの中だ
狭いこのBOXの中で蹲る自分の姿を看護婦が見たら
驚くだろうか?
怒るだろうか?
それとも‥気が付かないだろうか?
楽しみであり不安もあるが
此処で時間を過ごすのは嫌いじゃなかった


考えているうちに携帯が震える


<まだ駄目じゃよ。おぼこいこと言わんと。
 ちゃんと言わせんしゃい>


やけに焦らすメールの内容
短い文章にやけに時間が掛かる
彼にしてみれば珍しいことだった
それに負けぬ遅さで自分もメールを打つ


<だったら素直に本題に入ったらどうだ?>


皮肉めいた言葉で返す
今まで遅かったメールが
今度は速攻で返って来た


<誕生日、おめでとう。今日の昼に見舞いに行くぜよ>


受信の時間を確認すれば零時ピッタリ
これには流石に驚いた
ペテン師のやることにしてはロマンチック過ぎしないか?


<‥ありがとう。
 見舞いの品は真田に言って皆で食べられるケーキにしてくれ>


そう送信した後すぐに
気力を振り絞って即座にメールを打つ


<お前は皆よりも先に来るんだろう、当然>


送信してパタッ、と携帯を閉じる
携帯を抱き締めながら
次に震えるのを待つ‥


◇ ◇ ◇


「幸村くん‥幸村くん!」

「‥ぁ‥ハィ‥?」

「こんな処で何をしてるの?駄目じゃない、病室抜け出したら」

「すみません」

「あら、携帯?まぁ‥それで此処に?」

「えぇ、本当にすみません」

「全く‥駄目よ?次からはちゃんと相談してね」

「ぇ?」

「携帯。使える場所の確保してあげるから」

「本当ですか?」

「他の患者さんからも多いのよ。携帯を使える場所が欲しい、って」

「ありがとうございます。そうして下さると助かります」

「さぁ、病室に戻りましょう」

「はい。‥ぁ、ちょっとだけ‥待って頂けますか?」


メールの受信BOXを覗くと
其処には当然じゃろ?と
今にも彼の笑った顔が浮かびそうな返信があった









2004.04.20