047:きっと会えない | |
夜中のコンビニに行くことなんてあったのか 硝子越しに姿を確認した意外な人物に、仁王は歩く足を止めた 「こげなとこで何してると?」 暖かさを取り戻したかと思えば、また寒くなる 微妙な季節 只でさえ体調を壊しやすいと言うのに… 相手は随分と薄着のようだ 「やぁ」 にっこりと手にした本から目を離し笑顔で挨拶を返す相手 こっそりと溜息を付きながら 相手が手にした本に目を移すばそれは意外なものだった 「そげん本、いつも読んでるんか?」 「これか?否、テニス以外のスポーツは好きじゃないが」 「なら、ゴルフの本読んでるんじゃ?」 「何故…何でだろうな?」 真面目に答える幸村に、思わず仁王は本を取り上げ本棚に戻した その時に触れた手は冷たくて 冷たい手を引っ張りながらコンビニの中をグルリと一周し 幸村が前に好きだと言っていたホットの飲み物と 法律違反の酒を買い込み、さっさとコンビニを出た 「コレ好きやったとね。飲みんしゃい」 「ありがとう。お前の手にあるものは何だろうね?」 「見んといて」 「部長である俺の前で飲むなんて、仁王らしいな」 クスクスと笑いながらも、取り上げることはせず 手渡したりんごジュースのホットを飲み始めた 「げに、こん時間にコンビニに居るんは珍しかとね。どげんして?」 「さぁ?何でだろうな」 顎に手をあて考え込む姿は絵になっていた この寒いのに薄着で 自分の着ているジャケットを脱いで肩に掛けると 微笑みで礼をする幸村 「会えるとは思ってなかった」 「ん?」 「きっと会えないんだろうと、そう思っていた」 「…俺に、と?」 「そうだ。けど、会えてしまったからな。どうしようか」 会えた時のことまでは考えてなかった… そう呟いて、彼は仁王の腕に手を絡ませ歩き出した 何処へ? それは気にしないことにした 折角、会えたのだ 夜中の散歩と洒落こもおう 手に取ったが開けずにいた酒をビニール袋に戻し 2人、腕を組んで歩いた きっと会えないと思って居たのに 出逢えたから この貴重な時間を酒で濁らせてしまうのは勿体無い 袋をゴミ箱に投げ捨て 口元に笑みを浮かべ歩いた 「風邪引かんように、もっとこっちにきんしゃい」 頷き笑う幸村の表情は 綺麗だった ◇ ◇ ◇ 「くしゅん」 「どうした幸村、風邪か?」 「どうやらそうみたいだ。夜の散歩の所為だな」 「夜の散歩だと?!」 「なぁ、仁王」 笑顔で振られた話題と 真田の顔がこっちを向いたのは同時だった 幸村精市 彼は恐ろしい人だ 何を考えているのか ペテン師と呼ばれる自分でさえも、全てを把握出来ない |
2004.04.15 |