040:幼い残酷さ | |
テレビドラマが現実がいつ、自分に降りかかるか 誰もそんなことを予想しないし そんなことは在り得ないと思っている だからこそ 無邪気に笑っていられるんだ 自分の身に降りかかる悲劇 それを想定しないドラマだからこそ 人は笑い 泣き 笑う もしもそれが本当に自分の身近で起こったら? そうしたら… どうする? ◇ ◇ ◇ 「ねぇ、聞いた?」 「聞いた、聞いた!2組の丸井君でしょう?」 「そぉそぉ。テニス部の丸井くん」 「赤也くんに刺されたんでしょう?」 「らしいね。怖いよね、同じ学校でさー」 「ねー。切原君って前々から色々と噂あったしね」 「何?噂なんてあったぁ?」 「知らないのぉ? 何でも他校の生徒にボールぶつけて、怪我させてたって」 「ぇー。知らなかった」 「…うん、怖いねぇー」 「幸村くんも大変だよね」 「そうだね。部長だし…責任とかある、よね?」 「どうなんだろうねー」 バァン! 机に手をついて思い切り音を立てて立ち上がる その音に驚いた女生徒たちがこちらを恐々と見ている それに一瞥しながら 「確かに丸井が刺されたのは本当の話。 けど、赤也のことをよく知らないでそんな話を 俺の近くでするのは…。余りにもデリカシーが無いと思うな」 「…幸、村君…。あの、ごめんなさい」 「………」 謝る彼女たちの顔には謝罪の色は全く見えない 彼女たちにとっては他人のことなのだ 自分とは全く 関係ないと そう思っているのだろう 「俺はブン太も赤也のことも。キミたちに何も言われたくない」 「でも、本当のことじゃない」 「そうだよ。幸村君が怒るのは分るけど…」 「うん、本当のことだもんね。私たちは何も悪くないよ」 「幸村くんの方がずっと身近に居たんだもん。 部員がそんなことするなんて」 「幸村君の指導不足じゃないの?」 「何、言うとる。そんなことある訳ないじゃろ」 「仁王…」 白いしっぽを揺らし 教室のドアに手を掛け身を乗り出して 仁王がこちらを睨むような鋭い視線で彼女たちを一蹴した 「幸は何も悪ぅ無い。勿論、丸井もとね」 「じゃあ、切原くんだけが悪いの?」 「それじゃあ丸井くんも浮かばれないよね」 「うんうん」 「そげんこと他人に言われる筋合いなか。 何も知らんのはホントじゃろ」 「それでも…」 「ねぇー?」 「何も知らんと、幸を傷つけるのは許さんよ」 「別に私たちは…」 「うん、幸村君を悪くなて言ってないじゃん」 「そうだよ。言いがかりはよしてよ」 「赤也も、丸井も同じ仲間だから」 「そうじゃ。悪ぅ言うていいんは、丸井の家族だけと」 「何も知らないキミたちに、何が分るんだい」 「赤也の苦悩が分ると?丸井の痛みが分るとかね」 「これは現実なんだ。俺たちの仲間が刺され、刺した」 「ホントのことやし、現実じゃけん。 事実だけ知る奴が、真実を歪めるとね」 「何、言ってるの…」 仁王と幸村の2人の言葉 2人の顔 それを恐れ 怖がり 少女たちは後退りする 「誰も何も知らない。刺された、それだけの情報。 それだけで赤也を悪者にしないでくれ」 「悪いんは、赤也だけじゃなかと。丸井にだってあるとよ」 「そんなの知らないよ。刺されたのは丸井くんでしょ」 「そうだよ。刺した赤也くんが悪いのは当然じゃん」 「2人とも何言ってるの?」 「ちょっと可笑しいよ」 「ねぇー」 何も知らない 何が原因なのかも知らない どちらに何があったかも知らない 真実を知ろうとはしない 其処にあるのは テレビの前の視聴者と同じ 何も知ることもなく ただ情報に流され 翻弄され 忘れる それだけ ◇ ◇ ◇ 「怖い顔しとるよ」 「そう、かも…知れないな」 「何を、考えてた?」 幸村を抱き寄せ 髪に顔を埋める 震えた手と 白い肌 其処にある感情は 憎しみ? 「もしも…あの事件が俺たちの学校だったら…」 「そげなことを考えてたんか。幸らしくないとよ」 「…考えただけで、自分や回りの人間が嫌になったよ」 抱き寄せる仁王に背を預け 肩の力を抜いてしまう その身体を仁王は支え 力強く 更に抱き返す 「誰にでもあることじゃけん。幸はこの世界が生き難いとか?」 「どうだろうな」 「幸がこの世界を嫌ったら、俺も嫌いになるとよ」 「お前は…きっと、耐えられるんだろうな」 「幸が耐えられんなら、俺がいつまでも騙してあげると。 安心しんしゃい」 「…仁王…」 「誰にでも残酷な面はあるとよ、幸」 「…お前にも、か?」 「当然じゃろ。俺はいつも幸を…」 言葉は紡がれることはなく 2人の唇が重なることで 言葉は喉の奥に消えた |
2005.01.20 |