015:聞きたくない

ノイズが聞こえる
ザワザワと雑踏のようなノイズ
人のしゃべる声
女の子の黄色い声
ざわめく声たちは渦を巻いて飲み込まれてゆく
悪意ある言葉のノイズとして‥
その渦が押し迫り
部屋の片隅で膝を抱えて耳を塞ぐ

聞こえない
聞こえない

そんな言葉は聴きたくない

だから聞こえない
聞きたくないんだ!!

消えて‥
何処かへ消えてしまってくれ
もう嫌なんだ‥

そんな言葉は聞きたくない
他人の言葉に傷付きたく無いんだ
他人の言葉に反応したく無いんだ
他人の言葉に胸を締め付けられたく無いんだ

幸せは
与えられるものじゃない
与えるもの
知っている

知っているけど
この胸は悪意に満ちてしまう
そんな自分が嫌なんだ
悪意や憎悪に身を任せたく無い

だから
聞きたく無い!!

何も見たく無い
何も聞きたく無い
何も
何も
何も‥
嫌だ
こんなの嫌だ
こんな自分は嫌なんだ


「‥嫌‥だ‥」

「‥幸?」

「嫌‥聞きたく‥無い」

「どないしたと、幸」

「嫌なんだ‥もう嫌だ‥」

「何が嫌と。言ってみんしゃい」

「‥全てが‥」

「それは俺のと?」

「‥お前は‥嫌いだ‥」

「俺は幸が好きとぉよ」

「‥嘘つき」

「何処が嘘とよ。俺は幸が好きとね」

「お前は‥人を騙すくせに‥どうして‥そんなに‥」

「泣いてたら分らないとね。ちゃんと言いんしゃい」

「‥ズルイ‥。どうしてお前はそんなに綺麗なんだ‥?」

「綺麗?何言うとるとね。幸の方が綺麗」


何処が
こんな醜い自分
仁王はテニスで人を騙す
けれど実際はこんなに綺麗だ
天邪鬼だけれど
綺麗な心
仁王の言葉は聞きたく無い
全てを許してくれるから‥


「この涙も、透明で綺麗とね」

「‥嫌だ‥聞きたく、無い‥」

「困った子やねぇ。今日は何かあったとね?」

「‥嫌‥」


言葉を忘れてしまったかのように
それしか言えなかった‥


「聞きとぉないなら、仕方無いとね」

「‥‥‥」

「そん代わりに、今日はずっと抱き締めて寝る」

「‥仁王‥」

「聞きたく無いんやろ?えぇから、耳塞いでんしゃい」

「その分、身体に聞こえるようにするとね」


聞きたく無い言葉
聞きたく無いのは言葉だけ
だからこの心音は‥

耳を塞いで部屋の片隅で
2人で音を消した
残るのは
2人の心音‥






2004.04.25