005:どちらが上か

屋上に差す太陽は容赦なくアスファルトを焼きつける
その熱さから逃げ出した、数少ないアスファルトを見つけ出す
影になった其処は、屋上の入り口から見え難い場所にあった
そんな場所に居たからか、見たくない現場に遭遇した


「わたし、仁王が好きだから。
 それだけは絶対に伝えておきたかったんだ」

「すまんのぉ」

「いいってば。仁王に好きな人が居るのはみんな知ってるんだよ?」

「女子の情報網は怖いからのぉ。俺も気をつける」

「そうした方がいいね」

「お前さんはえぇ女になるとね」

「勿論、その予定。‥仁王。幸村くん、これから大変だから‥」


まさかこんな場所で自分の名が出るとは思わず
後ろの壁に頭をぶつけてしまったじゃないか


「知っとるとか」

「幸村くんと同じクラスだから。彼、最近は顔色が‥ちょっと、ね」

「お前さんのように幸の体調見抜くような奴がいて、俺も嬉しいと」

「これから部活でしょ。じゃあね」

「あぁ。また」


彼女は去ったのか、ドアが開く重たい音と閉まった音が聞こえた
仁王は意外と女子に嫌われてると思ってたが‥
一部の女子には好感を持たれてるのか
頭のなかに新しい情報を入れ、持ち込んだ飲み物で喉を潤す
この暑さでペットボトルは汗を流している


「頭、ぶつけたんじゃないとか?」


仁王は人の気配には敏感
これもまた、知っていた情報のひとつだった
普通に会話をしているものだから、気付いてないと思って油断したな
幸村はそう思いながら、声の方へと顔を向けた
太陽の光で銀色の髪が更に輝いて見えた

「そんなに大きな音がしたか?」

「なんとなく、じゃ」

「正解。頭をぶつけた。しかし‥お前が俺を好きと?」

「噂らしい」


喉で笑うような仕草をし、幸村の隣へと座る
銀色の髪が揺れて、そのしっぽを無造作に掴む
こんな色なのになんて触り心地が良いんだろう‥
いつもながら不思議だ


「幸と女子とじゃあ、女子の方が上とね」

「それは何に対して、だ?」

「俺の感情に対してじゃ。‥お前さんは鈍か」


そう言うや否や、仁王の唇が幸村の唇に軽く、軽く触れた






2004.12.28