002:雨の日

梅雨の中休み
そんな日がずっと続いていた
夏には恵みの雨と持て囃される水分
その水分が地上に降り立つことは無かった


「随分と長い間、雨が降りませんね」

「そうだな‥部活も好調に進められるが‥」

「どうかしましたか?幸村君らしくもない」

「好調に進められるのは幸いだ。けれど部員の休みが中々と、ね」

「真田君が居ますからね、うちの部には」

「そうなんだ。真田が休みを取らない。‥困った」

「彼も馬鹿ではありません」

「分っては居る。けれど他の部員を真田のペースに合わせるには
 無理があり過ぎる。このままだと誰かが倒れ兼ねない」

「それもそうですね」

「どうすればいいと思う?仁王」

「さて、仁王君に聞くのですか?」

「柳生の格好の姿をした仁王だ。それなりの答えをくれるだろう?」

「いつからバレていたのです?」

「最初からだ」

「それは随分とつまらんとね」

「さっき柳生に会ったばかりだからな」

「何とまー、タイミングの悪いことじゃね」


変装を見抜かれた仁王は、髪をバサバサと掻く
腕を伸ばして取られたメガネは、今や幸村の手に
度の入っていないメガネを手で弄びながら
幸村は考える
このまま雨が降らないと確実に部員が倒れる
しかし‥


「大会が迫っとるぅしね。合宿も控えとる。どうするとね」

「さて‥困ったものだな」

「いっそ、雨乞いでもしてみたらどうかねぇ?」

「雨乞いか‥随分と古風だな」

「雨ほしやに 水ほしやに 雨おろちへたまふれ
 いぶおろちへたまふれ」

「‥仁王?」

「雨乞いの唄と」

「雨乞いの唄?それは‥初めて聞く」

「試しにしてみるよか」


そう言うと彼は、幸村の腕を引いて水場へと導く
蛇口を捻り溢れる水を巧みに操り、水の軌道を幸村へと
頭から水を被った幸村
そして自分も水を被る仁王
暑い日差しが肌を焼くなか、水は心地良いクールダウンとなる


「‥仁王」

「そう睨みなさんな。雨乞い言ったとね」

「だが、水を被る必要性が感じられない」


不貞腐れてしまった幸村の髪を梳きながら
彼は先ほどの言葉を口にする


「雨乞いする時、神女が水を撒きながら歌うとね」

「俺は男だが?」

「それはそれ、これはこれとね。要は神様に祈りを捧げると」

「それとこれに‥意味が?」

「天岩戸と同じ要領じゃけん」

「それは‥」


幸村の言葉を塞ぐように自分の唇を重ねる
幸村が好む、啄ばむようなキスではなく
濃厚で、仁王が好きなキス
舌を絡め取り、息を吸う暇も無いくらいに咥内の奥まで舌を伸ばす


「んっ‥ぅ‥」


息が出来ない幸村が、仁王の胸を叩くが
それを無視して自分好みのキスを楽しむ
肩で息をする幸村を他所に
仁王は彼の首筋へと唇を這わせる
ポロシャツの下から手を伸ばし、素肌に触れる
過敏になっている幸村が手で制止するが、それの手をも潜り抜け
仁王の手はポロシャツを捲くり上げ、幸村の白い肌を舌で弄ぶ
赤みの差す幸村の顔を、上目で見つめると楽しそうに笑う


「白い肌は直ぐに赤くなるのが、わかるとね」

「‥っ、こら‥やめ‥ろ」

「雨乞いやから、我慢しとぅね」


白い肌に朱色の証を残す
出しっぱなしの水が、幸村の手を濡らす
押し倒される身体
それを支える為に水場を支えにする
笑う仁王を精一杯睨むも、仁王のキスで妨げられる
自分はやはり仁王に弱い
そう自覚するも、学校でこれ以上の行為を許す程
幸村は理性を失っては居なかった


「‥仁王‥っん‥やめ、ろ」

「ひさに2人きりとよ」


彼の手がズボンに延びたところで
ポツン、と肌に当たるもの
次第にその粒は大きくなる


「‥雨」

「雨乞いをしたおかげだな」


乱れたジャージを直しながら
ニッコリと笑顔で幸村が言う


「‥ピヨッ」

「今日の練習はこれで終了だ。皆に伝えて来てくれ」

「‥‥‥」

「仁王。そんな顔をしても駄目だ」

「幸‥一緒には、帰ってくれるかと?」

「途中まで、はな」


眉を顰めているわりには、後ろ姿は飄々としている
溜息を付きながら
この恵みの雨に感謝する


「あと少しで、流されるところだったよ」


雨を全身で受けながら火照った身体を休ませる
同じく雨を受ける仁王は


「雨乞いも本当に出来るとね」


少し憎らしそうにソラを見上げたのだった