001:涙

乾いた雨が降った
乾いた雨が実際にどんなものか
そんなのは知らない
けれど確かに乾いた雨だと…そう感じた

この時期になると
天候によって練習メニューが変わる
それに加え、部長の気分でも変わるのだ
この立海大付属のテニス部は

人に好かれそうな彼は、穏やかで居て
何か企むのが好きで仕方ないらしい
それを臆面にも出さずに実行に移す
だから怖い
今日もその計画は確実に実行されつつある
何がしたいのか
何も公園で練習とは…我が部長ながら呆れる


「何がしたいとね、こん人は」

「私に聞かないで頂きたい。彼の行動に詳しいのはキミなのだから」

「そうは言うが、俺でも理解出来んとよ」


雨の後の公園
其処に残るのは…


「濡れた地面…っすよね?」

「そう、だな」

「幸村部長って、不思議な人っすよね」

「そこで何故に俺を見るとね」

「だって…ねぇ?」

「キミが1番の理解者でしょう」

「俺が幸村を?…理解出来んとよ、俺には」


それぞれに指示を出し終え
最後にレギュラーの元に訪れ彼は言う
遊べ、と


「幸村。何と?」

「だから遊んで構わない」

「此処で?」

「そうだ」

「何で遊べと?」

「さぁ?それは各自好きなもので構わない。以上」


そう言うと彼は、仁王の腕を引っ張りその場を去った。
呆れ顔で、けれど慣れた様子の残された二人は…


「…どうします?」

「軽いランニングとアスレチックをしましょう」

「そうっすね」


攫われた仁王は公園の中心部にある噴水へ。
雨の名残か多少、水が濁っていた


「…来月から」


腕を離し仁王に背を向けたまま彼は呟く
その声には色がない


「練習には参加出来ない」

「それは何故とよ。大事な時期なんは、自分が1番分かってるだろ」

「あぁ…解っているよ」

「だったら、どうして?」

「この前の検査…結果が出たんだ」

「検査?」

「あぁ。オレの腕は動かなくなる…このままだと」

「…幸村?」

「だから…今は…」


彼の腕の中に飛び込む
暖かい体
抱き締めてくれた腕
シャツを濡らした水分
それは乾いた彼の涙
見えることは無い
彼の涙だった