十八年の歳月

子供が大人になる程に長い
短い髪が長くなって、また短くなって伸びる程度には長い

その長い時間を共に過ごし、生きてる奇跡
普通の人間であればこれが普通なのだろうが
自分達の環境は通常とは掛け離れたセカイ
日常にあるのは平穏とは正反対の死
惨憺、冷酷、非道、無慈悲な殺戮
その日常にある些細な、安穏
其れを受けるには余りにも汚れた身体
故に、手にした温もりの大切さを知る
二律背反は其れを奪う血塗られた手

隻腕は温もりを持たず、触れる事を戸惑い彷徨う
悪魔の瞳はその動作を見逃さず、冷めた手を握る
愛しい、愛おしい存在へ遂げた金色の子供

子供は少年へ、そして青年に成長した
変わらぬは天上を彩る銀の煌めき
それを埋もれさすこと無く引き立たせる金髪
口端を釣り上げる笑み、独特な笑い
温もりの異なる腕を愛する心

細くしなやかな痩躯は不安を伴う
抱き締める度に飯を食わせ様と誓わせる

節目の年から、約十年
新たな戦いに繰り出すその日
邪魔になると判って居ても尚
贈らずには居られなかった

互いの右に鈍く輝きを放つリング
炎を灯す事など無い其れは
自己顕示欲の現れなのだろう



十八年
短くて刺さる髪が手触り抜群の艶を持つ長髪になって
今から思えば節目の年である、争奪戦の後
長髪は歪に切られチクチク刺さる短髪になった
伸ばす意味が多少変わった銀糸は、緩くウェーブを描く
髪の様に性格が穏やかに為らないのは当然で
寧ろ凶悪にすらなった形相に加わる色気

瞳の奥に潜む狂気を包む慈愛の色
灰銀の其れを愛おしく感じる事はトップシークレット

隣に存在する事が当然の日々
怒涛の任務、束の間の休息
其れを妨げる組織の危機
笑みの下でこっそりと舌打ちひとつ

鈍く輝く右のリング
其の指は心の安定を司るのだと誰かに聞いた
その隣、これまた揃いのリング
苦難を避ける指に嵌るコレで
王子を楽しませてくれよな


「っーか、さ。コレ、炎で融けちまうんじゃね?」

「特殊加工済みだぁ」

「あ、そっ。珍しく手回しイイじゃん」


素肌を触れ合わせベッドの中
長い銀髪が肌を擽る


「明日には出るぞ」

「わかってる。だからこうして…な?」


脚を脚に絡め、誘惑の赤に勝てず
無意識に口付けた左の手首
朝まで情事に耽る






2009.12.22