冷めたコーヒー程マズいものは無い

その日は珍しく非番が重なった
季節の移り変わりを身体で体感する夜
秋の夜長に寒さが交わる、冬の匂い

去年の今頃は何をしてたっけ?
潜る毛布の柔らかさを頬に受け思考に耽る
その思考も上瞼が下瞼に恋をする時刻だ
考えては直ぐに霧散を繰り返し
唐突に考えが纏まった

そうだ、去年の今頃も…

重たい瞼を徐々に持ち上げれば
太陽の眩しさよりも大好きな煌めき
銀のやさしい光が目を刺激する


「…すく、あーろ」


掠れた声で小さく名前を呼んだ
寝入って居るのだろう、反応は無い

吐き出した白濁の量が二人の疲労を表す
何日も任務で離れていた所為か
隙間を埋めたくて、切望した身体を求め
何度も繋がり合っては欲を吐き出した

疲労からくる心地良い眠気
それに耐え切れず、スクアーロが寝てしまった
普段は自分が寝入るのを確認してから眠る奴が
身体を抱き寄せ腕に閉じ込め、悪いの一言を残し
寝息を立てながら、普段より幾分か幼い顔を晒して
安らかに眠っている姿は悪い気がしない

頬にはお気に入りの柔らかな毛布
身体を包む腕は温かく素肌の感触が気持ちいい

来年も、更にその翌年も
この寝顔を見ては今日を思い出せればいいと
睡魔の誘惑に傾いた意識の底で思う
そして朝、冷めたコーヒーを飲んで
マズいの一言でキッチンに立つスクアーロに
とびきりの笑顔で言ってやるんだ


「だぁいすき」






2008.10.24