戻れ無い関係性を嘆くなら、狂気に身を晒したい
雨はきらいだ 嫌でもあの夜のことを連想させる 銀色が、深い水底に沈む光景をスクリーン越しに見た 助けに行きたいと必死に訴え震える手足をどうにか誤魔化して 笑って見せたけど…他人には覗かせることない瞳が 潤んでいたのを自覚して、余計泣きたくなった 隣、声高らかに嗤うボス 確かにこの人につき従うことを決めた ボスが殺せって言うならオレはちゃんと殺すよ それが例えスクアーロだとしても、さ だけどボス 王子さ、あの鮫が好きなの あの銀色が無性に好きで好きで仕方ねーの 血に汚れてもキラキラ光るあの髪とか 殴られて痛み我慢する横顔とか 慣れないことして赤くなる耳とか 左右違う温もり持つ手とか 頭撫でながら名前呼ぶ声とか 安心する心音持つ胸とか ほんと、さ ばかみてぇに好きなんだ… だけど王子の忠誠はボスに捧げたから ボスが駄目って言えばオレ、何もしないよ だけど…だけど、ボス 涙が止まらないんだよ 震えが止まらないんだよ 悲しい、淋しいって言ってんの オレ…王子なのにさ、へんだよね 数え切れない人間殺した殺人鬼が泣くとか そんなの可笑しいよね? 泣くのは馬鹿らしい 戻らない奴を待つなんて出来ない 心が痛い、淋しい、寒いって言うし息が詰まりそう それでもオレは… 血に踊らされてしまえばいい 頭で囁く声は甘美な響きで抗えず 手にしたナイフで腕を切り裂けば意識が吹っ飛んだ 銀色が弾けて消えた 見えるのは真っ赤に染まる屍の道 ただ狂乱の淵、蹲り見てるだけ 血を分けた兄弟が殺戮を繰り返すその様を もういいんだ、と引き止める腕と声が無い限り 戻ることも出来ず、記憶に残る銀色を掻き抱いて眠る 何度、現実に戻されようとも繰り返す あの銀色以外は受け付けないんだ 銀の褥は安らぎの色 赤は殺戮狂いの色 「ねぇ、ボス。ベル…限界だよ」 「…………」 我を失ったベルフェゴールに見せる幻覚は、彼が愛した銀髪 超一流の幻術使いであるマーモンが作る奴の姿は本物と見間違う程 幻覚のスクアーロに抱かれ、漸く大人しくなったベルフェゴールだが 温もりも香りもない幻覚では誤魔化せなくなっている 「…続けろ」 「ボス…。判ったよ。ボスが言うなら続ける。 けど、数日も持たないよ」 目覚めた彼は絶望する 怠惰には不釣合いな絶叫を上げ、彼は…泣き続ける 銀色がその手に戻る日まで血を流し狂い傷付き 泣き続けるだけ |
2007.10.26