いっしょに

少し離れた場所からあの人が俺に向かって手を振っている
どうして俺が…そんな気持ちの方が大きいが今日は
あの人にとっては大切な日なんだろうから
我慢しようと、心に決めた
決めた、んだが…


「何故、俺が…」


虚しく声は大空に消えてゆく

5月5日
この日を一緒に過ごすようになったのは
芥川さんが中学1年の頃からだそうだ
祝日だから家族で過ごしているとばかり思っていた俺は
この話を聞かされた時には少なからず驚いたことを記憶している
誕生日にも関わらず自宅で寝ることしか出来ない芥川さんを連れ出したのは、矢張り跡部さんだったようだ

あの人の家族は自営業らしく、祝日も何も関係ないんだろうな
だからあの人は一人、自宅で眠って過ごすだけ
何処でも寝てしまうその癖は
もしかしたら家族の仕事が関係しているのか?
ふとそんなことも考えた


「ジロの奴、楽しそうじゃん」

「そうですか。俺には別段、変わって見えません」

「去年は若、来なかったじゃん。ジロ、拗ねてたんだぜ」

「別に俺が居ても居なくても関係ないじゃないですか」


隣を歩く向日さんが俺の背中を強く叩く
小柄ながらも、叩かれれば痛いに決まっている
睨むと向日さんは不機嫌な顔をしていて
それが何故なのか、俺には理解出来なかった


「オレは…あん時は別に若のこと、今ほどじゃなかったけどさー。
 ジロはあん時もお前のこと、好きだったんじゃねーの?」

「はぁ…」

「それに!オレはどんな理由でも、若と…その…」

「貴方と一緒にいられるなら。別に構いませんけどね」

「ぅ…。そーだよ!だから今日だけだからな!」


いつの間にか俺の背中に張り付いている芥川さん
そんなあの人に指差す向日さんには、先ほどの照れた様子は消えている

この人は素直に物事を言うが、直ぐに照れたり怒ったり
本当に飽きない人だと思う
子供、とも言うのかも知れないが
そんな向日さんに惹かれているのは確かなので、口には決して出さない
子供と言うとこの人はまた、拗ねるから


「今日はおれの誕生日なんだからさ〜。ふたり、イチャつくの禁止ね」

「イチャついてませんよ」

「ふーん。なら、いいっけど。じゃ、行こうっか、ひよ」

「このままの格好で?」

「うん!」


本日、何度目か分らない溜息をついて
俺はこの背中の子供と
俺の前で不貞腐れている恋人と手を繋いで跡部さん宅へ急いだ


「お前ら…そうしてると親子みてぇだな」


着いた早々に、跡部さんにそう言われ俺は不機嫌になった
それでも今日こうして付き合うのは子供みたいな先輩の誕生日だから
この人の思いには答えられなくても、大切な日だけは
一緒に過ごしたいと言う、芥川さんの願いを叶える為だった






2006.05.05