Vorliebe | |
あの高さから見える景色を俺は想像出来ない 一瞬の合間に見える景色があの人を魅了する だから余計に気になった どんな風に見えるのか それを本人に問い質してみたけれど あの人の言っている事は相変わらず理解不能だった 「先輩。それでは答えになって無いです」 「そう言ってもよぉ。そぉ、なんだよ」 「だから。どう、そうなんですか?俺には想像出来ないですから」 「だーっから。日吉も飛んでみそ?」 「出来ません」 この人の考えた方は不思議で理解に苦しむ それでいて正レギュラー 姿と言動と、プレイスタイル そのどれを取っても理解に苦しむ コートで見せるこの人の表情は全て『楽しそう』な顔だ 苦しい顔もするが、最後には必ず勝つ それが例え、パートナーの忍足先輩の力だとしても あの人は自分がやったかのように喜ぶのだ その笑顔は忍足先輩にしか向けられない 特別な顔だと‥何故か思った 今もコートではしゃぐあの人を見つめ、俺は練習に励む それはあの人と肩を並べるだけじゃなく 俺の力を誇示したいが為 ダブルスは好ましくないからやりたくはないが あの人と同じ列に並び、そして共に整列する 勝利を得る為の努力 それだけが目的じゃ無いが、俺の練習にはそれも含まれている 自分のその感情を認めたくは無い けれど目があの人を追い掛ける‥ 「日吉!もう上がりだって。跡部部長が留守だから、って」 「‥‥‥」 「頼むよ。忍足先輩が鍵預かってるらしくてさ」 「‥解った」 忍足先輩‥あの人は全く 陽が暮れるのが早くなった しかし氷帝学園にはナイター設備も完備されている まだ練習が出来ると言うのに どこか納得出来ない自分をどうにか誤魔化して 後片付けを終え、部室に向かう 部室にはパラパラと人が残っていた シャワー室にも何人か残っているらしく 俺はその残りが出るまで待とうと、椅子に腰掛けた シャワー室からはハシャギ声が聞こえる (無駄に騒ぐなら帰れ‥) 心で毒づく それが顔に出ているのは鳳の苦笑顔で知れる だが、それがどうした この部室は正レギュラーと準レギュラーのみが使えるがゆえ 設備が整っている それは自分の努力と実力に見合ったが為の設備 それを‥ そんなことを考えていると シャワー室の方からざわめきが聞こえ ドタッ、と誰かが倒れる音 のぼせて誰かが倒れたのだろう 「誰か倒れたみたいだ」 「その様子だな」 「誰だろ」 「知るか」 何故か隣に座る鳳と会話らしきものを交わしていると 忍足先輩があの人をタオルごと抱かえて現れた (‥よりにもよって、この人か) 倒れたあの人も心配だったが 抱かかえているのが忍足先輩だと思うと 胸がジリジリと焼けるような気持ちになる 「向日先輩、どうしたんですか?!」 「コイツなぁ、風呂が好きなんやけど直ぐにのぼせるんや」 「のぼせただけなんですか?」 「頭は打ってへんから、平気や。それよりタオル持って来てくれや」 「はい!」 「‥‥‥‥」 向日さんの身体をタオルで覆い 鳳が持って来たタオルで更に身体を覆い、残ったタオルで身体や髪を そっと、拭いている忍足先輩 それを見ているだけの俺 (‥結局、この人が立ちはだかるのか) 「日吉。お前も見てへんと、拭くの手伝いや」 「何故俺が‥」 「日吉」 「‥わかりました」 忍足先輩の瞳に睨まれ、俺は渋々を装いあの人の髪を拭く その俺を見た忍足先輩の口元が笑いの形を取ったのが見えた この人には何もかも、お見通しなのか 憤りよりも、やっぱり‥な そんな思いだった 何処までも忍足先輩はあの人の保護者 それが解っている今は、ゆとりを持ってこの人に接しられる それを知る前は‥ 「っ‥んー?」 「気付いたんか」 「あれ?オレ、もしかしてまたのぼせた?」 「その通りや。ふざけ過ぎやで岳人」 「悪い、侑士。けどよ、お前だって一緒に遊んでたじゃんかよ」 「俺のは見守ってた、や」 「嘘つくなよな!」 「そんな元気なんやったら、はよ着替え。せやないと全部見られるで?」 ニヤリと笑う忍足先輩 確かに‥このままだと全身を残った人に見られるな 確実に 忍足先輩の手は、向日さんの胸より下を拭いている 俺はというと、起き上がったこの人の髪を少し乱暴に拭く 「げっ!」 「スッ裸見られとぉなかったら、はよ自力で着替え」 「って、日吉ぃ。もっと丁寧に拭けよな」 「お断りです」 「くそくそっ」 タオルで下半身を押さえ、シャワー室に戻る向日さん そしてククッ、と笑う忍足先輩 「‥‥‥」 「何や日吉。何か言いたそうな顔しよって」 「別に‥。何でもありません」 「そないに心配せんとき」 「何だ、日吉もちゃんと心配してたんだな!」 「うるさい、黙れ鳳」 「‥日吉。俺にはつれない‥」 「ハハッ。ええやないか、鳳。他の連中は皆シカトされてんねんで?」 「本当ですか?」 「ホンマや」 「先輩も余計なことを‥」 タッタッタッ ドーン 「‥‥‥」 「よーし。着替え終わったぜ!」 「早かったな。もっと掛かる思うとったわ。ほな、解散するで」 忍足先輩の声に、残っていたメンバーがアタフタと着替え始める 俺の背中の物体にはノータッチですか、先輩 「そうだぞー、早く着替えろー」 「貴方はそんなことを言う前に、俺から下りて下さい」 「気にするなー」 「俺は気にします。それに俺はまだシャワーを使って無いんです」 「何だよ、お前まだなの?早く行けよ」 「‥‥‥」 「おーぃ、侑士!日吉まだシャワー使ってねーんだって」 「何やトロイな。ほな岳人、鍵は任せたで」 「は?何言ってんだよ。侑士が跡部に頼まれたんだろ」 「せやって日吉がシャワー使われへんかったの岳人の所為やし」 「そうですよ。日吉、あんな顔でも心配してたんですから」 「‥鳳」 「そー言うこっちゃ。ほな、日吉。岳人と鍵は任せたで〜」 「何だよそれ!オレがおまけみたいじゃんか」 「おまけやもん」 下らないやりとりに、溜息を残し 俺はシャワー室へ行く どうせあの人のことだから、鍵だけ残して行くだろうし 兎に角今は、落ち着きたい 軽く汗を流し、出ると 部室の方は静まっていた 他の人は帰ったのだろう それの方がラクでいい 正直、あの人の髪の感覚がまだ手に残っている 濡れたあの人の顔や身体 火照る自分を恥じる 「日吉ぃー。まだかよ」 「‥向日さん?」 「やっと出たな。ほら、早く着替えろよな。そんでマック!」 「鍵は俺がやりますから、どうぞお帰り下さい」 「何言ってんの。オレは正レギュラー。お前準レギュラー」 ニシシッ、と笑う向日さん 「奢りませんよ」 「いいよ。今日はオレが特別におごってやるよ」 「‥珍しい」 「さっき、オレの髪拭いててくれた礼な」 「‥別に」 「オレの髪、日吉スキだろ?」 「‥‥別に」 「わかるんだよな、オレ。日吉が髪拭いてた時、気持ちよかったし」 「そう‥ですか」 「おぉ!」 「‥乾かしたんですね」 「んー?あぁ、髪ね」 「‥触っても?」 「いいぜー」 触れた髪はサラサラと俺の指をすり抜ける まるでこの人のように‥ 「ぴよし」 「日吉です」 「ぴよしの髪、オレすきだな」 「‥あなたの髪には負けます」 「当然」 笑い、俺の髪に触れる 背伸びしているのが悲しいところ けれど俺には好都合 らしく無いと言う相手も居ない だから俺は‥ 「俺も好きですよ」 (‥あなたが) すり抜ける前に、赤い髪にキスをした |
|
■挫折感たっぷりでお届けしてます 久し振りの更新が微妙ですみません‥ |
2004.11.17 |