sofort

いつも此処からスタートだよね
此処から始まったんだよね


手を伸ばせは届きそうなのに
なのに手が届かないもどかしさ


あと数センチ
身長が高かったら


あと数センチ
自分の腕が長かったら


いつも呪うのは自分の身長
周囲を見渡せば自分と同じ年なのに
見上げて見るしかない顔ばかりで
劣るのはこの身長の所為だと決め付けて
いつも繰り返し、繰り返し夢で願う


どうか目覚めたら…
  身長が伸びていますよーに


風が心地よくて
思わず目を閉じたら頭を叩かれた


「…痛い」

「当たり前やろ。叩いてんねんから」

「侑ちゃんだ〜」

「侑ちゃんだ。じゃあらへんよ。何してん、自分」

「何って?」


人懐っこい眼で「何って?」と首を傾げられ
忍足は思わず


(可愛いやんか)


そう心中呟いていたが
その思考を振り払うように首を振り被る


「何、やないて。今日は身体検査の日やろ?
自分、まだ済ませてないやん」

「……そーだったっけ?」

「あんな…」


脱力しながらも、ベンチへ座る慈朗の隣に自分も腰掛ける
相手の顔を観察する
慎重に言葉を選びながら忍足は言葉を掛ける
慈朗が何を考えているか
大抵の予想がついていたからだ


が、残念なことに慈朗にはその言葉は届いていなかった


既に夢の中
身体検査が嫌いな訳じゃない
寧ろダイスキだし
でも…さ
もしも
もしもだよ?
この前よりも身長が伸びて無かったら
それを考えると憂鬱になる


あと数センチ
その数センチが大切なんだ


「夢の中に逃げたらアカンで?」


そう声が聞こえた
おれを労わる音色
けど、その中にはちゃんと厳しさも含んでいて
それは目の前の現実から逃げるな
そう言ってるようだった


「…うん。分かってるよ」

「せやったら、行こか」

「……」

「ジロ」

「………」


頭の中で命一杯考える
このままサボって、自分から逃げるのと
目の前の現実と向き合うの


だったら後悔しない方を選ぼう


「うん!いこっか、侑ちゃん」


力一杯、跳ぶ
ガックンの真似みたいに、空に向かって飛ぶように
ベンチから跳び立った


空は真っ青で綺麗だったから
おれの心も晴れやかな気分になった


「ほらほら、侑ちゃん早く行くよぉ〜」


侑ちゃんの手を取って、駆け足で校舎へ向かう
今のおれには
向かうところ敵無し!


まさにそんな感じだった






2004.1.17