ソラの夢



保健室から音楽室は近い
それをおれが知ったのはあの日から数日後


オシタリクンとはあれから何度か会った
それは屋上だったり
中庭だったり部室だったり
同じ部活だったなんて知らなかった


知らなくても支障はなかったけど
知って良かったとは思う


「忍足クン」って呼ぶのが面倒で
おれは「侑ちゃん」って呼ぶ
それに侑ちゃんの方が侑ちゃんには似合ってるし


相変わらずおれは夢の中にいる
今もまた
此処のソラがおれを引きずろうと必死で誘ってる
その誘惑に耐えられなくて
おれはゆっくりと瞳を閉じた


此処のソラは相変わらずだ
澄んでいて
綺麗で
おれが大好きなソラ
手を伸ばせが届きそうな
それでいて包み込むような寛大なソラ
今までは此処に居られればそれだけで良かった
なのに
何でだろ…


今は


此処のソラがもの哀しく思えるんだ


何でだろ


問い掛けても答えが出来る訳もなくて
だって此処にはおれしか居ないんだから


此処はおれのソラ
おれだけのソラ


だからおれ以外には誰も居ない
それが当たり前で
それがおれにとってのゆとりで


なのに今は…


侑ちゃんが居ない


それだけで哀しくなった
だからぎゅ、って瞳を思い切り瞑った
次にゆっくりと瞳を開いたら


またあの曲が聴こえた


「ボレ、ロ?」

「そうやで」

「侑、ちゃん?」

「我儘やけどベッピンさん。超一流の弾き手が弾いとる
『ボレロ』や」

「…?」


侑ちゃんの言ってる意味がわからない
ただわかるのは
おれはこの曲が好きってこと
此処は保健室で
音楽室は保健室からとても近くて


「曲だけ聴いとると、跡部が弾いてる思えへんなぁ」


そう言う侑ちゃんの微笑みが
とっても綺麗で
おれは「アトベ」に嫉妬した





ひとりのソラに
誰かが入り込んで来た瞬間が

なのかも知れない