もが、キミにしてる
滝萩之助の場合

これ以上に無いって程、惨めな思いをしたんだ。
これ以上、何を恐れる必要がある?

レギュラー落ちしてから、日常が劇的に変化した。
嘘、これ流石に言い過ぎかな。
けど変わりつつある事は確か。
自分自身の気持ち。
環境の変化。

変わったものもあれば変わらないものもある。

岳人は…変わらなかった方、かな。
あの性格だし、普段と変わらなかったよ。
多少の同情みたいなのは見えたけど、別にどうでもいい。

相手は岳人なんだから。

ただこんな時だから、岳人の存在を大きく感じる。
見た目とは裏腹に彼は凄く、男前な性格だ。
豪快と言うか、単純と言うか、素直と言うか。
兎も角、救われている。

レギュラー落ちをしても変わることは少ない。
僕は僕自身である事に変わりはない。
周囲は五月蝿いけどね。

部活が終了して、今まで立っていた場所を遠くから見る。
未だ練習をするレギュラーたち。
それを見るのは酷く悔しかった。

距離を置いたからこそ、尚更…欲しくなる。

それはレギュラーと言う座ではなく、傍に居られる権利。
着地に失敗した岳人を心配そうに覗き込む忍足。
その姿にジリジリと胸が焦がれる。
あの姿を見て、やっぱり思う。

俺は岳人が好きだ、って。

最初は弟みたいな存在だった。
そこから始まって今や恋愛対象まで昇格。
凄い事だよ、これ。
肝心の岳人はそうは思わないだろうけど。

岳人は俺には気付かない。

よく恋愛の相談をされる。
それだけ俺を信頼してくれてる。
話をされる度に俺の心を燃やす何か。

嫉妬って見っとも無いな…。

レギュラー落ちしても、宍戸を憎いとは思わなかった。
彼の努力と言う才能に嫉妬はしなかった。

淡白な人間。
存在感が薄い人間。
所詮、その程度。

でもいいよ。
岳人はきっと分かってくれる。

きっと…。

俺の気持ちには、誰も気付かない。

別にそれで構わない。
無意味な争いや諍いは好まないから。

ただ望むのは・・・・

   今の関係が崩れない事。

       現状維持。

          それが唯一の願い。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

落ち込む事から目を逸らすかのよな彼。
その彼を見つめて落ち込む人間が居る事に彼は気付かない。

彼は過去の人間で、現在、未来の存在ではないらしい。
それでも彼を見てこの彼は落ち込み、悩む。

誰かに恋をして、また違う誰かに恋をする。
リレーは続いて行く。

彼は誰かに恋をして敗れて、また新しい恋をした。

今度は誰?





2002.09.10
2007.08.11