もが、キミにしてる。
忍足侑士の場合

同じ学校、同じ部活、ましてや同じクラス。
学校と言う生温い時間に捕らわれている限り
いつでも一緒に居られると思っていた。

端整かつ、気品に満ちた顔。
日焼けから逃れた白い項。
その首筋にキスがしたい…寧ろ噛み付きたい。

そう思う様になったんは三年になって直ぐやった。
男が好きな訳やない、寧ろ女の子は大好きや。
細い腰、華奢な身体は守らなければ、と男の本能が告げる。
今までかてこの年の割には、色んな子と付き合って来た。

せやけど…どの子も長続きせぇへんかった。


「何でやろな」


呟きが青空に飲み込まれた。
何処が好きやとか…正直、分からん。

分からんのは、女の子と長続きせん理由やなく
アイツの何処が好きか、ちゅうことや。
全く持って分からんのに好きやと思う自分が居る。
ただ気付いたんや。
アイツの瞳に誰も写ってへんことに。

俺らの誰も見てへん。
長く一緒に居る俺らですら見てへんのや
クラスメート、ましてやその他大勢など眼中にない。
何処か遠くをいつも見とる。

誰を見てるんや?
その瞳にどうしたら俺は写るん?

なぁ…跡部。

その瞳に写るんやったら何でもしたる。
お前が望むんやったら、誰の技かてコピーしたる。
お前が望むんやったら、試合に絶対に負けへん。
お前が望むんやったら、めっちゃ嫌やけど…
恋愛の手伝いかてしたるで、俺は。

お前が望むんやったら…俺の身体かてやる。

けど、こないなことしてもお前の瞳に写らん。
だから俺は別の手でお前の視界に無理矢理、入る。

お前に憎まれてもええ。
その蒼い瞳に俺が写るなら…それで、ええねん。

なぁ、跡部。
俺をその瞳に写してや。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

恋をしている時には気付かない事がある。
誰もが気付かない、恋の罠。

誰もが誰かに恋している。
それを忘れている限り、誰も気付かない。

忍足侑士は跡部景吾に思いを寄せて。
けれど跡部は他人へと思いを寄せる。

誰もが誰かに恋をしているのだ。
忍足に思いを寄せている人がきっと居る。
それが本来の運命の相手だとしても
彼は絶対に気付かない。

恋は盲目だから。

さぁ、次は誰?






2002.09.07
2007.08.11